
いいときエリアには「その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康に良い」という食に対する考え方があります。
自然が育むいいときの「食」は素朴で、決して豪華ではありませんが、その土地で大切に育てられた「自然の恵み」をその土地の澄んだ空気の中でいただくと体の中まで浄化されるような気持ちになることでしょう。

戸隠そばの歴史をたどると、この地が修験道場として栄えた平安時代までさかのぼります。修行僧が携帯する食糧として村にもたらされたのがそばだったと伝えられています。そのころは、そばの実をつぶしたり、練ったりしたものを食べていたと考えられています。
現在のようなそばの食べ方、いわゆる「そばきり」が出されるようになったのは江戸時代で、当時は祭礼のときなど「特別な日」に振る舞われる食べ物でした。
近年、そばは健康食としても注目されています。そばは、疲労回復に効くというビタミンB1や成長・発育を促すというビタミンB2が豊富です。ほかにも肝臓を強化するビタミンの1種・コリンやホルモンの合成、疲労回復、炎症を和らげるというパントテン酸、高血圧や動脈硬化を予防するポリフェノールの仲間・ルチンなどが含まれ、たんぱく質やアミノ酸も多く、栄養のバランスが良いことが特徴です。

戸隠は、風味豊かな「霧下そば」の産地です。
香り高くおいしいそばの生育には、稲には適さないような「やせた土地」で、日当たりと水はけがよい、昼夜の温度差が激しい冷涼な気候の高地が適しています。
戸隠はまさにその条件にぴったりの地。ちなみに「霧下そば」の名前はそばの生育のころ、霧に覆われていることが多いことに由来しているそうです。
そして、おいしいそばの決め手は清冽な水。戸隠では、山の澄んだ伏流水を使うため、喉ごしと風味が生きるそばが出来上がります。

戸隠そばは、「ぼっち盛り」と呼ばれる独特の盛り方で出されます。
円形のざるに、開口部のつぶれた馬蹄形状で5~6束ほどを盛ります。数は地域によって異なります。一説によれば、戸隠神社ゆかりの神々である九頭龍神(くずりゅうしん)、天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)、天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)、天表春命(あめのうわはるのみこと)、天鈿女命(あめのうずめのみこと)の5柱の5に通じると言われています。宝光社では6つのぼっちを盛りますが、これは地域の地蔵堂を加えた数字と考えられています。
戸隠には、江戸時代からそばの薬味として使われていたという大根がありました。自家採種により栽培は続けられていましたが、長い歳月の中で次第に形や特性にばらつきが出てきたため、地域の人たちが品種改良に着手し、2002年に戸隠大根本来の姿・味を復活させました。それが「信州の伝統野菜」としても認定されている「戸隠大根(戸隠おろし)」です。
長さは約20cm、重さは200~300gという小ぶりなサイズ。肉質は緻密で硬く、少し下膨れしたような形をしています。おろすと辛さの中にほのかな甘さを感じる、信州の方言でいうと「甘もっくら」とした大根です。
以前から鬼無里の各家庭では、大根、ナス、かぼちゃ、野沢菜などをはじめ、夕顔、リンゴ、シイタケ、なめこ、えのきなどを乾燥させ、炒めたり、茹でたりとさまざまな調理方法で食べていました。
野菜は乾燥させることで日持ちがよくなります。さらにそれだけではなく栄養もアップします。ビタミンCなど水溶性ビタミンは減りますが、たんぱく質、脂質、炭水化物やミネラル、カルシウム、ナイアシン、食物繊維が濃縮されます。また糖度も増し、おいしくなります。
乾燥野菜を作るには、野菜の中から十分に水分を取り出すための熱、乾燥した空気、そして水分を大気に放出させる空気の循環が必要です。(ちなみに水分が10%以下にならないと雑菌が繁殖すると言われています。)


乾燥させるために外に出すのは日が照っている間だけ。夜露や雨に当てないように、日が暮れる前に部屋の中に入れます。もちろん、野菜の種類によって干す前の準備は異なります。例えばピーマン、かぼちゃなど種のあるものは種を取ってから、ナス、ごぼうなどのアクのある野菜は、水でアク抜きをしてから乾燥させます。
鬼無里は寒暖の差が激しい地で、夏は30度以上、冬はマイナス20度を下回ることもあります。根雪は100日を越え、全域が「特別豪雪地帯」に指定されているほど降雪量が多く、3~4mを越える年もあるほど。
乾燥野菜はまさに「時間」と「手間」、そして野菜が採れない季節でもおいしく野菜を食べるために鬼無里の人々が考えた「知恵」の結晶です。
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